自主研究レポート

    自主研究として実施した土砂移動実態の把握とその解明に関する研究、土砂移動現象の分析と表現手法に関する研究、砂防ソイルセメント工法や砂防構造物に求められる機能と構造に関する研究などの概要や結果について紹介します。
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2023(令和5)年度自主研究レポート

(1)大規模土砂生産後に生じる活発な土砂流出(中長期)に対する砂防事業の効果に関する研究
    大規模な土砂災害が発生した場合、生産された土砂の全てが一連の降雨(短期)で下流へ流出せずに山地流域に残存する場合が多い。このため、活発な土砂流出が継続し、下流の河床変動が数年間続く(中期)ことが懸念され、これら残存した土砂の流出に伴う被害を防止するための対策が必要となる。本研究は、このような中期土砂流出の実態を明らかにすることを目的として、モニタリング手法、データ分析手法等を検討する。
    本年度は、最上川水系立谷沢川流域等 3 流域においてインターバルカメラを設置し、濁りが発生するタイミング等を観測した。また、RGB 単位ベクトルを用いた画像解析を行い、水位データや濁度計データとの比較を行った。
(2)FEM 解析による地すべり活動休止中の地すべり安定度と臨界安定度の予測に関する研究
    本研究は、FEM 解析による安定度評価手法を活用して、地すべりの変位と安定度の関連性を分析し、地すべりの現状の安定度とその臨界安定度を分析・予測する新たな手法の開発を目的としている。
    本年度は、地すべり動態や地下水位観測データが取得されている秋田県横手市の地すべりを対象に、現地踏査による土質性状の確認、粘性パラメータや変形係数等による感度分析を行った。また、局所安全率や残留変位、せん断ひずみ、最大せん断応力等の時系列変化を整理し、地すべり変位との関係を分析した。その結果、せん断ひずみの変動の平面分布や地すべり変動前後の局所安全率の変化を示した。
(3)地すべり機構解析及び効果評価における CIM 活用事例の検討
    地すべり分野の CIM の活用は、地すべりの挙動が土中であることから機構解析及び効果評価において期待されているが、現状において十分に活用しているとは言えない状況にある。これは、CIM をどういう場面で活用するかという整理、また分かりやすい表示という点にも原因がある。
    このため、本年度は地すべり CIM に関する既往検討のレビューを実施し、対象者の理解段階に応じて示すべき情報を整理した。それらを基に、①主題に対する表示内容の組合せ、②抑止工効果や地下水位変動の表現方法、③分かりやすさについて検討し、理解し易い表現方法を提案した。
(4)降雨分布を考慮した流出解析システムの構築
    本研究は、土砂・洪水氾濫対策検討等において、降雨分布を考慮した流出解析を行うためのシステム構築を目的としたものである。
    本年度は、分布型降雨流出解析の必要性について再整理し、分布型降雨流出解析の活用方法、システムの基本構成と必要費用の再整理、構築の年次計画を検討した。
(5)新たな生産土砂量の算定の検討調査
    本調査は、砂防計画において、計画生産土砂量(崩壊土砂量)を適切に算定するために、近年の災害データを基に新たな生産土砂量の算定式を検討するものである
    本年度は、前年度の姫川流域に続いて、筑後川右岸(平成 29 年九州北部豪雨)と広島西部山系(平成 30 年 7 月豪雨など)を対象とし関係分析を行った。検討において、素因(地形・地質)の影響についても分析した。なお、降雨指標については、災害時の降雨レベルが地域ごとに異なることから、発生確率年で評価した。
(6)砂防施設配置計画に関する研究
    平成 30 年に砂防基本計画が改訂され、河床変動計算を用いて砂防計画を検討することとされている。本研究は、土砂・洪水氾濫対策計画で用いられている河床変動計算手法を用いて、砂防施設配置の効果に関する基本的な検討を目的として行うものである。
    本年度は、2つのモデル流域を対象として、砂防施設の配置や計算条件を変化させ、短期的な洪水に対し砂防施設の効果がどのように変化するかについて検討した。今後は中長期的な土砂流出に対する施設効果も検討し、砂防施設配置の基本的な考え方をとりまとめる予定である。
(7)気象モデルを用いた既往降雨の再現に関する調査
    本調査は、過去の顕著な豪雨災害を対象に、気象モデルを用いて詳細な降雨分布の再現を行い、崩壊発生との対比や降雨流出解析に用いることで、関連研究(新たな生産土砂量の算定の検討、降雨分布を考慮した流出解析システムの構築)の精度向上を目的とするものである。
    対象流域は天竜川流域で、「昭和 36 年梅雨前線豪雨(三六災害)」を対象とした。気象モデルの計算に用いる長期再解析データとして今回は「JRA-3Q」を用いた。
    今年度は、基礎的な計算を行い、再現した雨量データと実績の雨量データを比較し、再現精度について確認した。
(8)遊砂地の手引き化に向けた検討
    本研究は、土砂・洪水氾濫対策として遊砂地を検討する際の手引き書を作成することを目的として実施するものである。
    本年度は、初年度として遊砂地に関連する既往文献や研究報告を収集し、遊砂地の定義や遊砂地の実態について整理した。また、次年度予定の水理模型実験の実施内容を検討し、模型の制作を進めた。
(9)透過性を有する応急対策技術の開発検討
    本研究は、土石流・流木対策の新しい応急対策技術を開発することを目的として実施する。
    本年度は、既往の代表的工法の構造的な特長を整理し、開発目標や条件(透過構造・重力式構造物で捕捉を目的とする、浮力の影響が少ない等)を整理した。また、発災後に迅速に搬入できるよう市場性が高い建設資材(敷鉄板等)の活用を主眼とする。
    そして、今後実施予定の水理模型実験について検討し、実験準備を行った。
(10)火山噴火時の緊急対策工の開発に関する研究
    本研究は、火山噴火等に起因する土砂災害に対し、短時間で施工可能な緊急対策工(捕捉工、導流工)の開発を目的としている。過年度の研究では、緊急減災計画における外力の考え方、限られた施工期間で効率的に対策効果を発揮できる考え方、コンクリートブロックによる砂防堰堤の課題等を整理した。
    本年度は、過年度に検討したH形鋼を建て込む構造について、長所と短所を整理した。また、コンクリートブロック砂防堰堤の一体化を図る方法として、ブロックに孔を開け鉄筋を挿入する方法を検討した。
(11)砂防分野における Eco-DRR 推進に向けた研究
    本研究は、土砂災害リスク軽減方策として、Eco-DRR(Ecosystem based Disaster Risk Reduction)の可能性を検討するものである。近年、気候変動に伴う気象災害の激甚化等を踏まえ、Eco-DRRが国際的に注目されている。
    本年度は、過去に砂防事業として実施された Eco-DRR に類似したハード対策事例等の文献調査を行った。そして、砂防分野に Eco-DRR を導入する際の課題を抽出し、土石流対策として具体的な Eco-DRR(ハード対策)を一部検討した。
(12)地震時の斜面崩壊メカニズムに関する基礎的研究
    本研究は、地震動に起因する斜面崩壊の基礎的研究として、崩壊に影響する地震の特性等(震度、加速度、速度、周期、継続時間、震源距離、直下型と海溝型の差異、地質構造など)の実態整理を行う。
    本年度は「震度 6 強以上を記録した平成以降の地震」を対象に、土砂移動現象の実態と KNET 等の地震動データを収集し、関連する既往文献もあわせて収集した。そして、顕著な土砂災害発生時の加速度スペクトルの卓越周期等の震動特性について解析を行った。
(13)シミュレーションに関する技術開発及び操作性に関する研究
    本研究は、河床変動シミュレーションに係る業務に資するための既存シミュレーション技術の改良および新規プログラムの開発を行うものである。
    本年度は①流木による橋梁閉塞による被害想定のため、水理模型実験を実施し、閉塞形状や流木濃度と閉塞確率との関係などを解析した。一方、有限体積法の一種である HLL 法による一次元河床変動計算プログラムの開発に取り組み、上記の河道閉塞による水位上昇を検証した他、土石流・掃流状集合流動における侵食・堆積速度式の比較とパラメータの違いによる計算結果への影響を確認した。
(14)火砕流モデルの高度化と融雪型火山泥流モデルへの応用
    本研究は、既往の大規模火砕流の 2 次元二層浅水流モデルを用いて、1991 年にピナツボで発生した火砕流の氾濫計算を行い、実績との比較を行い妥当性を確認した。噴出率や噴出継続時間などの供給条件は観測データからの推定値を、地形データは噴火前の測量に基づく紙地形図から作成した。その結果、堆積範囲の実績を概ね再現できることが確認したが、一部の谷埋め部については十分に再現できなかった。今後、砂防で広く使用されている宮本ほか(1992)の火砕流モデルについても妥当性を確認し、融雪型火山泥流モデルへの応用を検討する予定である。
(15)砂防施設の損傷事例と解析、補修方法に関する基礎的研究
    本研究は、鋼製構造物や砂防ソイルセメントなど STC が関与してきた分野に限定して、被災事例を参考に損傷した場合の被災原因の推定や復旧方法等を整理し、今後損傷が生じた場合の対処方法の手順を取りまとめることを目的としている。
    今年度は、国内外の設計基準等を収集し、損傷時の対応(点検、評価、対策)を整理した。次にFusion360 を用いて実際に損傷が生じた舛玉第 2 砂防堰堤を対象に、損傷状況について逆解析を行った。その結果、再度災害を防止するために、流木による透過断面の閉塞を防止することが有効であり、捕捉した流木が鋼製高の 1/2 高まで堆積した時点で除木すると良いことがわかった。
(16)透過型砂防堰堤の渓流環境に対する効果に関する研究
    本研究は、透過型砂防堰堤の渓流環境への負荷軽減効果(渓流の連続性を確保する機能)をさらに向上させるため、堰堤構造(底版やスリット部)の改良案や底版直下の落差解消方法について検討するものである。今年度は収集した構造の改良案や工夫案について、事例を参考に具体的な改良方法案や工夫案を検討した。

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