砂防システム研究室

 砂防システム研究室では、土砂・洪水氾濫や火山噴火に伴う土砂移動現象(土石流、洪水流(掃流砂・浮遊砂)、火砕流、溶岩流など)に対して、物理過程のモデル化や数値解法に関する研究を通じて数値シミュレーションモデルの高度化や新規開発に取り組んでおり、その成果を砂防事業の効果評価やハザードマップの作成など防災に役立てることを目標に活動しています。

最近の研究内容
□ 土砂・洪水氾濫に対する数値シミュレーションモデルの高度化
・土石流・土砂流の堆積侵食プロセスに対する細粒土砂の影響評価
  (e.g., 志水・藤田 2024 砂防学会; 石丸・志水・藤田・吉田・和田・山越・田中 2024 砂防学会)
 豪雨時、急傾斜の山地河川上流域での斜面崩壊により発生した土石流・土砂流が、河床から侵食した大量の土砂を緩傾斜の下流域へ運搬・堆積し、その堆積物と後続の洪水流が大規模な土砂と泥水の氾濫(つまり、土砂・洪水氾濫)を引き起こすことがあります(図1)。この土砂・洪水氾濫に対する数値シミュレーション予測を実施するためには、後続の洪水流の河床変動解析における境界条件として、土石流・土砂流堆積物の厚さ分布を予測する必要があります。土石流・土砂流による土砂の侵食・運搬・堆積の再現に対し、流れ内部の細粒土砂が清水流体のように振る舞う効果を考慮することの重要性が指摘されています。本研究では、細粒土砂の液相化が土石流・土砂流堆積物の厚さ分布に及ぼす影響を系統的に評価するために、土石流・土砂流に対する既存の2種類の基礎方程式系(宮本・伊藤2002; 鈴木ら2013)に、近似リーマンソルバーに基づく有限体積法(Toro 2024)を適用した1次元数値シミュレーションモデルを開発しました。開発した数値モデルに対し、リーマン問題の解析解との比較による検証(Verification)を実施し、数値解が解析解を概ね再現できることを確認しました。理論的・数値的考察により、特に細粒土砂を多く含む場合に、既存方程式系の違いが土砂の堆積侵食プロセスに定性的違いをもたらすことを確認しました。現在、両方程式系の妥当性確認(Validation)に向けた検討を進めています。

                        図1. 土砂・洪水氾濫の概念モデル

・1m地形メッシュとGPU並列計算を用いる洪水流(掃流砂・浮遊砂)数値シミュレーションプログラムの開発
  (青木・Arce Acuna・嶋(大) 2024 砂防学会)
 近年、豪雨による中小河川での土砂・洪水氾濫被害が増加しており、特に中小河川においては精度の高いシミュレーションが必要であり、1メートル以下の高解像度シミュレーションによる広域での土砂移動を予測が求められます。最新のGPU技術を使用すれば、このような高精度なシミュレーションも少数のGPUで実行可能であり、今後は国内外のスーパーコンピュータを使ったリアルタイム予測が期待されています。現在、これらを実現するための水の流れと河床変動の計算フレームワークを提案しています。

・簡易な土砂・洪水氾濫の数値シミュレーションプログラムの開発
  (吉田・嶋(大) 2024 砂防学会)
 土砂・洪水氾濫による災害に対して、想定される被害の程度や対策施設の効果を簡易かつ安価に検討するために、Excel上で動作する一次元河床変動計算プログラムを開発しました。計算手法は国総研資料1048号に基づいており、粗礫・浮遊砂の非平衡計算や細粒土砂の液相化(フェーズシフト)等を実装しています。

・橋梁に集積した流木による河道閉塞が土砂・洪水氾濫に与える影響を評価できる数値シミュレーションモデルの開発
  (和⽥・吉⽥・藤⽥・⽵林 2024 砂防学会)
 近年、気候変動による降雨量の増加等を背景として土砂・洪水氾濫が頻発していますが、橋梁に集積した流木が河道を閉塞することにより、氾濫被害を助長したとみられる事例が散見されています。橋梁への流木集積により生じる土砂・洪水氾濫の被害予測のためには、流木の流下および橋梁への集積プロセスを洪水氾濫モデルに導入する必要があります。このうち、橋梁に集積した流木による河道閉塞の影響を評価するためには、橋梁上流から流下する流木量に対し、橋梁で集積する流木量を評価する必要があります。また、橋梁への流木集積に関する既往実験より、同一の実験条件であっても流木集積の結果が大きくばらつく不確定性が観察されています。従って、橋梁への流木集積プロセスを確率的に評価し、それを洪水氾濫モデルに適用することにより、モデルの高度化を進めています。

□ 火山性土砂移動現象に対する数値シミュレーションモデルの高度化
・火砕流の到達範囲と火砕流堆積物の厚さ分布の両方を適切に評価可能な二層火砕流モデルの開発
  (Shimizu et al. 2023 GRL; 志水・小屋口 2024 JpGU)
 火砕流(火砕サージも含む)による危険範囲の予測、および、火砕流由来の融雪型火山泥流の供給条件の予測の高度化を目標に、噴煙柱崩壊型火砕流の到達範囲および堆積物厚さ分布を適切に評価可能な火砕流の二層浅水流モデルを開発しています(図2a)。本モデルには、噴煙柱崩壊型火砕流を評価する上で重要な二つの特徴があります。一つ目は、爆発的噴火では火山性噴出物のみを地表に放出するマグマ噴火だけでなく、火山性噴出物が地下水や湖水などの外来水と混合して放出するマグマ水蒸気噴火も頻繁に生じるため、その両噴火様式による火砕流を評価できるよう拡張されている点です(図2b)。外来水の混合率が大きいと、もともと700℃程度の高温であった火山性噴出物が100℃程度まで著しく減少し、それが火砕流の振る舞いを大きく変えます。もう一つの本モデルの特徴は、火砕流の成層構造(上部低濃度乱流サスペンション流と下部高濃度粒子流から構成)の効果を二層の浅水流方程式によって評価できる点です(図2c)。低濃度流と高濃度流それぞれの到達範囲決定メカニズムや堆積物形成メカニズムは異なるため、それらが火砕流全体の到達範囲や堆積物厚さ分布の決定に多様性をもたらします。大規模火砕流の場合、特に下部高濃度流については、地形の影響を強く受けるため、二次元の浅水流モデルとして定式化・実装されています。現在、ピナツボ1991年噴火堆積物分布(Scott et al. 1996)との比較により、実証的なモデル開発を行っています。

                図2. 噴煙柱崩壊型大規模火砕流の二層浅水流モデルの概念図

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