STCの取り組み

災害緊急調査

平成30年7月豪雨により広島県で発生した土砂災害に関する調査

※こちらは、機関誌『SABO』Vol.125の内容を載せております。

◆平成30年7月豪雨により広島県で発生した土砂災害に関する調査

1.はじめに
 平成30年7月5日から8日にかけて西日本に停滞した梅雨前線の影響により、西日本から東海地方にかけて記録的な大雨(平成30年7月豪雨)が発生した。この豪雨により、広島県においては、7月6日19時40分に大雨特別警報が発表された。
 平成30年7月豪雨により、全国で232名が死亡・行方不明となる甚大な被害が発生1)した。その中で、広島県においては最大の人的被害が発生し、死亡・行方不明者数が114名にのぼった2)
 広島県対策本部によると、本豪雨により発生した土砂災害件数は624箇所(詳細調査中)であり、87名が死亡した。
 当センターでは、土石流による被害の実態及び家屋等の被災状況等を調査するための現地調査を実施したほか、砂防学会調査団として職員が調査に参加した。また、国土交通省中国地方整備局河川部河川計画課、広島県土木建築局土砂法指定推進担当と合同で聞き取り調査を実施した。
 本稿では、現地調査等に基づき確認された現地状況及び聞き取り調査結果の概要について報告する。

2.土砂移動の発生範囲
 平成30年西日本豪雨による広島県の降雨や地質の特性については、海堀ほか(2018)3)等において詳述されているため、ここでは、今回発生した土砂移動の分布と地形、降雨との関係について概略的に述べる。
 図-1に、国土地理院の判読による土砂移動発生箇所の分布を示す。また、図-1には平成26年8月災害における土砂移動発生箇所を緑色で示している。平成26年8月の災害が広島市北部に幅約3km、長さ約20kmの範囲で帯状に分布している一方、今回発生した土砂移動現象は、広島市東部、熊野町、呉市、東広島市等の東西南北それぞれ数10kmの範囲で多数発生している。

(図-1)土砂移動発生箇所(国土地理院の判読結果による)

 図-2に傾斜区分と土砂移動判読結果の分布図を示す。土砂移動の多くは30°を超過する範囲を最上流部としていることは確認されるが、勾配が急峻な領域と土砂移動発生箇所が多い領域は必ずしも一致しない。また、図-2中に示した坂町周辺域や野呂山北東域においては、特に多くの土砂移動が集中しており、分水嶺に近い箇所からの土砂移動が認められた。

(図-2)傾斜区分と土砂移動発生箇所(国土地理院の判読結果による)の関係

 図-3に地質と土砂移動判読結果の分布図を示す。図の範囲においては、花崗岩が広く分布しており、野呂山周辺域にデイサイト・流紋岩類が分布している。土砂移動は、花崗岩、デイサイト・流紋岩類、貫入岩のいずれにおいても発生しており、発生の傾向に違いは認められない。

(図-3)地質分布(産総研シームレス地質図V2)と土砂移動発生箇所(国土地理院の判読結果による)の関係

 図-4に連続雨量と土砂移動判読結果の分布図を示す。図示した領域のほとんどにおいて連続雨量が400mmを超過しており、先述した土砂移動が集中している坂町周辺域や野呂山北東域においては、500mmを超過する結果となった。

(図-4)連続雨量分布(レーダーアメダス解析雨量より作成)と土砂移動発生箇所(国土地理院の判読結果による)の関係

3.現地調査結果
 本稿では、都市に隣接する渓流より土石流が発生し甚大な被害が生じた事例として広島市安佐北区口田南3丁目の事例、土砂洪水氾濫被害が生じた事例として呉市天応地区の事例を簡単に紹介する。なお、各渓流の概略位置は図-1に示したとおりである。
3.1 口田南3丁目の事例
 口田南3丁目周辺の国土地理院撮影の正射画像図を図-5に示す。
 口田南3丁目においては、流域面積0.38km2の土石流危険渓流I(小田川)の直下に市街地が分布している。本流域は花崗岩質の深成岩が覆っており、2m超の巨礫を含むマサ土が流出した。
 本地区の写真を写真-2 〜写真-6に示す。本地区においては、分水嶺付近の急傾斜地において複数の崩壊が発生し土石流として流下している。また、本川河道は侵食が進んでおり、基岩が露出している(写真-3、写真-4参照)他、河道内にはため池の痕跡が確認されており、今回の土石流により流出したと想定される。
 本土石流により、県道37号線上流において2m超の土砂堆積が生じ、堆積範囲はJR芸備線付近まで及んだ。また、土石流の直撃により谷出口に存在した6戸の家屋が流出(写真-5、図-6参照)する甚大な被害が生じた。

(図-5)口田南3丁目周辺の国土地理院撮影の正射画像

(図-6)口田南3丁目における氾濫範囲と被害状況

(写真-2) 源頭部付近の土石流発生状況(2018年7月16日空撮)(図-5中①)

(写真-3) ため池上流の河道の侵食状況(2018年11月10日撮影)(図-5中②)

(写真-4) 河床の侵食状況(2018年11月10日撮影)(図-5中③)

(写真-5) 谷出口付近の家屋の被災状況(2019年7月16日撮影)(図-5中④)

(写真-6) 谷出口における堆積状況(2019年7月16日撮影)(図-5中⑤)

3.2 呉市天応地区の事例
 呉市天応地区周辺の国土地理院撮影の正射画像図を図-7に示す。
 呉市天応地区においては、流域面積6.02km2の土石流危険渓流I(大屋大川)の直下に市街地が分布している。本流域は花崗岩質の深成岩が覆っており、大量のマサ土と流木が流出して河道が埋塞した。
 本地区の写真を写真-7 〜写真-11に示す。本地区においては、写真-8に示す三面張り区間より上流は、河床を著しく侵食して県道66号を寸断した(写真-7参照)。三面張り区間の直下の河床勾配1/10 〜1/20の区間は、巨礫を含む大量のマサ土の流出により河道沿いの家屋が被害を受けた(図-8、写真-9参照)。河床勾配1/20 〜1/50の区間は、大量のマサ土が堆積し河道が埋塞した(図-8、写真-10参照)。
 侵食区間と堆積区間の境となる三面張り区間に、土砂・洪水が氾濫した形跡はみられず(写真-8参照)、複数回発生したと思われる土石流の一波あたりの規模は、比較的に小規模であったと推察する。

(図-7)呉市天応地区の国土地理院撮影の正射画像

(図-8)呉市天応地区大屋大川の河床勾配

(写真-7) 河床の侵食状況(2018年7月16日撮影)(図-8中①)

(写真-8) 三面張り区間(2018年7月16日撮影)(図-8中②)

(写真-9) 家屋の被災状況(2018年7月16日撮影)(図-8中③)

(写真-10) 河床の堆積状況(2018年7月16日撮影)(図-8中④)

(写真-11) 右支渓との合流部の堆積状況(2018年7月16日撮影)(図-8中⑤)

4.被災地区での避難に関する聞き取り調査
4.1 聞き取り調査概要
 広島県内において7月6日、7日に土石流あるいは土砂洪水氾濫によって被災した地区の皆様に、当日の地区内の状況、避難状況、また日頃の活動、避難や防災に関する意識などについて聞き取り調査を実施した。
 調査は、8月22日、23日、27日に国土交通省中国地方整備局河川部河川計画課、広島県土木建築局土砂法指定推進担当と当センターの合同で実施した。
 聞き取り対象は、聞き取り調査順に熊野町川角自治会 自主防災会会長、広島市安佐北区口田学区町内連合会会長、広島市東区福田自主防災会リーダー、東広島市黒瀬町市飯田洋国団地自主防災会リーダー他2名、呉市天応地区自治会連合町内会会長をそれぞれ訪問し直接お話をうかがった(図-1参照)。また、今回は災害に遭われなかったが、平成11年の広島豪雨災害で被災し、これを契機に様々な防災活動に取り組んでいる広島市佐伯区五日市町河内地区自主防災会連合会会長のお話も伺うことが出来、あわせて6地区8名の方々から聞き取りを行った。
4.1 調査結果
聞き取り内容から抜粋したものが次の通りである。(順不同)
(1)防災体制・活動・住民の意識
・ 夜間避難訓練実施。過去の災害実例を見せている。
・ 住民は避難情報に関する言葉の意味を理解していない。避難準備情報とか避難勧告とかわかりにくい。
・(土砂法の)警戒区域等の指定が一定の防災意識の向上につながった。
・(土砂法の)警戒区域等の範囲が広すぎると、危険箇所の信頼低下につながる。
・ 危険の周知も大事だが、それ以上に住民を避難行動に移すための防災意識の向上に向けた常日頃からの啓発活動
  が大事。
・「今まで被災してないので大丈夫」と思っている人が多い。
・ 自治会独自で雨量計を整備し情報を自主防災組織内に配信している。
・ 避難勧告前に市と連絡をとり自主避難している。
・ 砂防施設整備されたところでも過信することなく避難を心がけている。
・ 町内運動会で「車いす組み立て移動」の防災種目をやっている。
・ 平成26年広島市安佐南区災害を題材に土砂災害啓発の手作り紙芝居を作成した。
・ 高齢者は、動けないので避難しても他の人に負担をかけると思っている。
・ 避難を呼びかけても避難しないのは、「また、ガセ(ネタ)じゃないか」と思っている。
 (昨年9月に防災メールで避難を呼びかけ何もなかったので今回も同じと思っていた。)
・ 訓練は年2回実施している。そのおかげで知識は身についたと思う。
・ 防災ラジオを自治会費で購入し全戸配布して役に立った。
・ 避難時に支援の必要な方々は、市への届け出、自治会の調査で把握している。
(2)当日の避難行動
・ 近所付き合いがない、自治会に入ってないなど情報が伝わらない。(その結果、被災)
・ 避難の呼びかけに回ったが、呼びかけする人数(役員)に対し世帯数が多い。
・ 平成26年広島土砂災害で、安佐南区では(連続雨量)200mmで崩れたと聞いていたので雨量計が200mmになった
  時点で避難した。
・ 土砂災害発生前に異臭を感じた人がいた。
・ 土砂災害発生をきっかけに避難が始まり、石や泥の中を歩いて避難所にきた人がけがをしていた。
・ 被災後に避難所に来た人が断然多い。
・ 高齢者が土石流発生前に「川の流れが気持ち悪い」と自主避難した。
・ あらかじめ民生委員役員会で各委員が避難時に担当する高齢者・障害者を決めておいたので、今回、対象者を
  前に避難させて助かった。
・ 20時過ぎに場所によっては腰まで水が来ているところもあった。ほとんどの人は避難せず家にいた。
  翌朝、土砂や流木が大量に出ていた。
(3)避難についての課題・意見
・ 避難勧告が出ても避難所が開設されておらず別の場所へ行った。
・ 高齢者を避難させてといわれても自治会では高齢者情報がなく高齢者の避難ができない。
・ 雨と二重窓で防災無線が聞こえない。
・ 今回の土石流はハザードマップの範囲から外れていた。
・ 平地がないのでどこに避難していいかわからないし、避難時に被災の可能性がある。
・ 安価な雨量計を増やすべき。
・ 避難所にいる全員が災害情報を共有するため、テレビ等を設置してほしい。
・避難所にPC等を使えるようにwifiを用意してほしい。
・避難手順書を整備する必要がある。(防災、避難に)リーダーシップを発揮できる人が重要だ。
4.3 まとめ
 今回、聞き取り調査にご協力くださった方々は、平時からそれぞれの地域において防災活動に取り組み、災害時にも率先して行動されていることがわかった。災害時に住民の避難行動が行われるためには、行政と住民の“つなぎ役”である自治会長や自主防災会リーダー等の存在が重要であることを改めて認識した。
 また、自治会で要配慮者を把握している地区と把握していない地区があること、避難所に関しても自治会長が避難所のカギを預かっている地区、カギを預かっておらず避難所である学校に連絡することになっている地区、というように自治体ごとに自治会等の役割に違いがあることもわかった。
 最後に聞き取り調査にご協力くださいました6地区8名の皆様に感謝申し上げます。

5.おわりに
 西日本豪雨では、多くの尊い人命が失われ、多くの方が未だ避難生活を強いられている状況にあります。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災地の早期の復興を祈念いたします。

参考文献
1) 消防庁応急対策室(2018):平成30年7月豪雨及び台風12号による被害状況及び消防機関等の対応状況(第58報)、平成30年11月6日
2) 広島県災害対策本部(2018):平成30年7月豪雨災害による被害等について(最終報)、平成30年8月13日現在
3) 海堀正博他(2018):平成30年7月豪雨により広島県で発生した土砂災害、砂防学会誌、vol.71、No.4、pp.49-60

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