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米国西海岸における土砂災害対策の実態等調査参加報告

※こちらは、機関誌『SABO』Vol.126の内容を載せております。

◆米国西海岸における土砂災害対策の実態等調査参加報告

1.はじめに
 安定した地盤が広がる北アメリカ大陸の中で、環太平洋造山帯に位置する西海岸部は日本と類似した地質特性を持ち、前世紀前半から日本の砂防に似た土砂災害対策を行っているアメリカでも希少な地域である1)〜9)。
 国土交通省と砂防学会は、日本での土砂災害対策を進めるにあたって参考とするため、国土技術政策総合研究所 土砂災害研究部砂防研究室 内田太郎室長(当時)を調査団長として、アメリカ西海岸の土砂災害対策に関する実態調査を実施した。
 これに参加したので、ここに報告する。

2.調査概要
調査日:平成31年1月13日〜1月20日
参加機関: 国土交通省、国土技術政策総合研究所、土木研究所、砂防・地すべり技術砂センター、砂防フロンティア整備推進機構、砂防学会、ワシントンコア(現地コンサルタント)
訪問先: ロサンゼルス郡、カリフォルニア郡

日時 行動
1月13日(日) 移動 成田空港→ロサンゼルス
1月14日(月) ロサンゼルス郡政府へのヒアリング
その後、現地視察
1月15日(火) 移動 ロサンゼルス→サンタバーバラ
2018年11月Woolsey and Hill fires跡等の現地視察(ベンチュラ郡)
1月16日(水) サンタバーバラ郡政府へのヒアリング
その後、現地視察
1月17日(木) 移動 サンターバーバラ郡→サンフランシスコ
1月18日(金) 現地視察( Devil’s Slide他)
1月19日(土) 移動 サンフランシスコ空港→成田空港
1月20日(日) 成田空港着


図-1 アメリカ西海岸現地調査行程
(背景図の著作権は Sources: Esri, HERE, Garmin, Intermap, increment P Corp., GEBCO, USGS, FAO, NPS, NRCAN, GeoBase, IGN, Kadaster NL, Ordnance Survey, Esri Japan, METI, Esri China (Hong Kong), swisstopo, © OpenStreetMap contributors, and the GIS User Community)

3.調査対象地の概要
 前述の通り、日本同様の脆弱な地質に加え、地中海性気候に属するこ域が荒廃し、冬季の豪雨で土石流が発生という日本とは異なる土砂移動の特徴が見られる。近年においても、2017年末の州過去最大の焼失面積に達した山林火災(Thomas Fire)の後に土石流が発生し、死亡者23人、負傷者28人に及ぶ被害が発生している(図-2、3)。
 一方で、ロサンゼルス郡は1万平方キロメートルの面積に人口約1,000万人を抱え、周辺の郡も合わせると2,000万人近くに達する米国でも有数の人口密集地区となっている。これらの背景から、対象地域では行政による土砂災害対策事業が行われている。


図-2 Thomas Fire後の土石流災害 (サンタバーバラ郡提供資料より)


図-3 2018年に発生した山林火災の跡(調査団撮影)

4.調査内容
4.1 調査手法
 アメリカ合衆国は、それぞれが主権を持つ連邦政府と50の州(state)からなり、概ね州の下に郡(county)、その下に市(city) という行政区分を持つ構成となっている。土砂災害対策においても、連邦政府、州、郡、市などの様々な組織が関与する形となっている。連邦レベルでは、国防総省傘下にあり全米の主要河川やダムなどの洪水関連インフラの整備、維持管理を担当している米国陸軍工兵隊(USACE:United States ArmyCorps of Engineers)や、内務省傘下に設置された土壌や浸食分野の専門機関であるアメリカ地質調査所(USGS:United States Geological Survey)等の重要機関がある。
 南カリフォルニアにおける主要な土砂災害対策施設であるDebris basin(詳細は後述)の建設はUSACEや郡が行うが、USACEが建設した施設でも管理・保守は郡が引き継ぎ行うこととなっている。また、郡が新しい施設の建設・運用・保守(除石)を行う場合、生態系への影響面等の様々な要因を考慮して許可や調整を行うのもUSACEの役目となる。
 今回の調査では、連邦政府機関等の監督の下、土砂災害対策の実務を行っている、日本の県に近い位置である郡を対象とした。カリフォルニア州南部に位置するロサンゼルス郡とサンタバーバラ郡の防災担当の職員にアポイントをとり、事前に既往文献やインターネット上に掲載されている計画等の収集・整理を行い、調査を実施した(図-4、5)。
 以下に、事前調査・聞き取り調査で得られた情報を含めて各郡に関する土砂災害対策の内容を示す。なお、有名なロサンゼルス市はロサンゼルス郡の中心都市である。


図-4 ロサンゼルス郡政府公共事業局でのヒアリング


図-5 サンタバーバラ郡緊急オペレーションセンターでのヒアリング

4.2  ロサンゼルス郡における対策

(1)ハード対策の基本
 ロサンゼルス郡における土砂災害対策は、山林火災後数年間活発化する土砂流出を対象としている。既往検討より、山林火災後5年間は土砂流出が活発化し、以降時間の経過とともに流出が沈静化していくことが確認されている。一方で山林火災に伴わない土砂流出は重視されていないようである。
 土砂対策のためのハード施設として、域毎に谷出口に1〜2基、Debris Basinと呼ばれる施設が配置される。小型のものを含め、ロサンゼルス郡では現在172基のDebris Basinが整備されている。Debris Basinは土砂を滞留させて堆積させるため巨礫が堤体に直撃することを考慮しておらず、堤体は土盛りが基本で、場合によって表面をコンクリートや現地発生巨礫等で保護するようにしている(図-6、7)。施設容量は50年規模で発生する24時間雨量による流出土砂量を対象として設計されている。流出土砂量は、既往の災害や流出土砂量データに基づき、地質・植生・地形で区分したエリア((Debris Potential Area(DPA)zone)ごとに、流域面積と比生産土砂量の関係性を示したDebris Production Rate Curves(DPR曲線)を設定し、この関係式から設定している(図-8)。


図-6 Debris Basinの例
(ロサンゼルス郡が管理するMaddock Debris Basin、左:ロサンゼルス郡提供資料 右:調査団撮影)


図-7 Debris Basin イメージ図
(ロサンゼルス郡HP(https://dpw.lacounty.gov/lacfcd/sediment/dcon/366.pdf)より)


図-8 DPR曲線の例
(ロサンゼルス郡提供資料に加筆。横軸: 流域面積、縦軸: 単位面積あたり流出土砂量としてDPAごとに算出)(ロサンゼルス郡HP(https://dpw.lacounty.gov/lacfcd/sediment/dcon/366.pdf)より)

(2)除石
 Debris Basinは除石管理を前提としており、排水塔、除石管理用道路、土捨て場(SPS: Sediment Placement Site)(図-9)等の付帯施設も整備するのが基本となっている。土石流発生後24〜48時間後には重機の搬入が可能な程度に排水されるという(図-10)。除石の基準は通常は施設容量の25%堆積した時としているが、山林火災発生時は5%に引き上げられる。関係他機関から生態態系保護の観点から土砂の攪乱を最低限にしてほしいという要望があり、調整の上で25%という数字になったそうである。
 近年では山林火災の頻発・大規模化を受けてSPSが不足傾向であり、SPSの確保が課題となっている。2013年には、SPS不足に対応する計画を策定しており、除石土砂の養浜や建材への活用等を検討している。


図-9 SPSの例
(ロサンゼルス郡が管理するMaddock Sediment Placement Sites、調査団撮影)


図-10 ロサンゼルス郡による除石の様子(ロサンゼルス郡提供資料より)

(3)緊急的なハード対策
 ガードレールに用いられるコンクリート材を用い道路等を流路代わりにして土砂・洪水を下流に流すK-rail、鉄道のレール材と木板を使用する Rail and Timber Structure等の緊急的なハード対策も行われている(図-11)。市販の資材を使用するため緊急時でも必要量の調達が可能であり、平常時からの計画や備蓄を行わずとも柔軟な対応が行えるということである。


図-11  緊急的なハード対策の事例
(左:k-rail 右:Rail and Timber Structure、調査団撮影)

4.3  サンタバーバラ郡における対策の概要
(1)ハード対策
 谷出口にDebris Basinを配置し除石を前提とする等、基本的な考え方はロサンゼルス郡と同じであるが、予算の規模等の違いがあり、SPSを専用の施設として整備していない、新規施設を作りにくい等の違いがある。除石を重視しており、2017年のThomas Fireにおいては、1ヶ月程度で焼失エリアの合計11カ所のDebris Basinを全て除石した実績がある。
 また、貴重な魚類が生息することから生態系保存の意識も高く、Debris Basinの透過型化や撤去の計画も進められていた(図-12)。


図-12 透過型化されたDebris Basinの例
(サンタバーバラ郡が管理するGobernador Debris Basin、調査団撮影)

(2)警戒避難
 サンタバーバラ郡では、ソフト対策に力を入れている傾向が見られる。郡は、短時間降雨量予測に基づき、土砂災害の発生リスクが高くなったと判断した場合に、以下の3段階で地域住民に避難勧告を発令するとしている。
 ① 豪雨が到来する72時間前に住民告知(ready)
 ②48時間前に避難準備(Set)
 ③24時間前に避難開始(Go)

 伝達手法として、直接訪問・スマートフォンアプリ・緊急速報メール等多様な手法がとられている。一方で避難率の低さも課題となっている。

(3)雨量基準
 山林火災後の土石流の危険性は、火災後の経過年によっても変化する雨量強度基準により判断される。雨量強度基準の設定はアメリカ国立気象局とUSGSにより定められる。加えて、サンタバーバラ郡では、郡内および周辺に雨量計が100箇所設置され、Web上でリアルタイム観測結果が確認可能である。

(4)危険範囲の設定
 山林火災が発生した場合、郡は期間限定で危険度の範囲を公表している。危険地域の評価は山林火災の強度に基づきUSGSにより実施される。USGSは流下氾濫範囲については不確実性が大きく示すのが困難として流域単位での危険度評価に止めている(図-13)。
 Thomas Fireの際には、サンタバーバラ郡は契約した民間会社が作成した流下氾濫範囲図を公表している(図-14)。


図-13 USGSによる危険範囲図
(USGS のHP(https://landslides.usgs.gov/hazards/postfire_debrisflow/)より、一部加筆)


図-14 サンタバーバラ郡による危険範囲図
(2018 年12 月公表版、サンタバーバラ郡のHP(https://sbcoem.maps.arcgis.com/apps/webappviewer/index.html?id=2dfd558de56f45158b4f67ef678a24e3)より、一部加筆))

5.おわりに
 今回の調査により、アメリカ西海岸における土砂災害対策の実態について貴重な知見を得ることができた。
 社会・自然条件が異なるため、単純に我が国に適用できるものではないが、除石を前提として土捨て場を整備し常に容量を確保する運用や、転用可能な資材を用いた緊急的なハード対策は、参考にできる点があると思われる。また、除石土砂の活用方法や数値シミュレーションによる危険範囲の特定等、日本から技術援助できる余地もあると思われた。ロサンゼルス・サンタバーバラ郡の両政府の職員とも業務で多忙にも関わらず暖かく対応して頂き、有益な調査であったと思う。
 一方で、日本とアメリカで技術交流する価値がある分野であり、実際過去にも交流が行われアメリカ西海岸の土砂災害対策について報告されているにも関わらず、その情報共有が充分になされていないことも感じられた。今後、確実に調査成果を伝達していくことが肝要と考えられる。

参考文献
1) 大久保駿: アメリカの砂防、新砂防、vol.27、No.1、p.21-26、1974
2) 清野雅雄:アメリカの土砂災害対策、新砂防 Vol.33、No.3、p.35-41、1981
3) 小野寺弘道:アメリカ西海岸の土砂災害防止事業現地視察報告、新砂防 Vol.35、No.2、p.44-49、1982
4) 水山高久:ロサンゼルスの砂防(1)、新砂防 Vol.35、No.2、p.36-38、1982
5) 水山高久:ロサンゼルスの砂防(2)、新砂防 Vol.35、No.3、p.17-19、1982
6) 村上隆博: 米国の砂防事情1、新砂防Vol.43、No.6、p.33-37、1991
7) 山田孝: 米国Los Angels County Department of Public Worksによって作成された土石流災害防止・軽減のための家屋補強手法に関する小冊子について、新砂防Vol.48、No.5、p.45-49、1995
8) 小山内信智:L.A.Countyの砂防と防災体制、新砂防 Vol.52、No.2、p35-38、1999
9) 野口尚彦:アメリカ西海岸における土砂災害と対策の現状、新砂防 Vol.57、No.1、p.51-61、2004

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