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溶岩流対策に係る土砂管理手法の運用実態等に関する調査参加報告

※こちらは、機関誌『sabo』Vol.128の内容を載せております。

◆溶岩流対策に係る土砂管理手法の運用実態等に関する調査参加報告

1.はじめに
 我が国では、歴史的には、たびたび溶岩流災害が発生しています。火山噴火により溶岩流が発生した際には、人命と社会資産を守るために何ができるのか?何をすべきか?これらを整理し事前に備えておくことはとても重要なことです。一方、近年は、大規模溶岩流により社会資産に大きな影響を与えるような経験をしていません。
 ハワイ諸島は、火山噴出物等により形成されています。その中でも米国ハワイ島は、現在、マントル内の上昇流の発生するホットスポットエリアに位置し、近年も噴火により大量の溶岩流がたびたび流下しています。その中でも2018年の噴火では、住宅街(であるレイラニ・エステート(Leilani Estates))からも火口が現れ、総流出量としては200年に一度の規模の溶岩流であったにもかかわらず、関係機関の連携により溶岩流発生を予知・予測・認知し、的確に住民が避難したことにより、死者の発生しなかった貴重な成功事例となりました。この経験は我が国の溶岩流防災の参考となる教訓を得られる場であると考えられます。
 そのため、観測調査や避難対策について、火山防災のために行政が(あるいは住民が)どのように認識・対応したのかを明らかにするために、行政機関及び住民に対してヒアリングと現地視察を実施することとしました。本稿では、すでに報告1)2)3)されている内容との重複を極力避けて、記述したいと思います。

2.調査概要
 調査日程:令和2年2月16〜22日
 参加機関:国土交通省、
      土木研究所、
      砂防学会(新潟大学、北海道大学)、
      山梨県富士山科学研究所、
      防災科学技術研究所、
      砂防・地すべり技術センター、
      火山防災推進機構
 訪問先:米国ハワイ州危機管理局(HI-EMA)、
     ハワイ郡市民防衛局、
     米国地質調査所(USGS)ハワイ観測所(HVO)、
     レイラニ・エステート外(現地視察及び住民ヒアリングを実施)

3.ハワイ島概要
 ハワイ諸島は、ホットスポットによる火山形成とプレート移動によって成立しています。このうち、ハワイ島は、現在のホットスポット上に位置し、諸島内で最も新しく、かつ最大の面積を有しており、“Big Island”の愛称でも親しまれています。また、島内で最も高いマウナ・ロア山の標高は4,000mを超えます。島内人口は約20万人です。

(図-1)ハワイ州概要地図

4.ハワイ島火山における溶岩流の特性
 噴火口の位置、流出ボリューム、流下方向を噴火前に事前に精密に予測することは難しいと考えられます。ただし、火山性地震、地盤の膨張等から、大まかな位置、規模、時期をある程度予測することは可能であるようです。
 溶岩流は、化学組成や温度により型が決まります。流下の過程で、空気や地面に触れて表面は冷やされると硬化されていきますが、高温を維持した内部がその硬化した表面部を破って流下するなど、非常に複雑な挙動を示します。火口付近は流速が速い(約20 〜30km/h)ものの、その後の平坦地での速度は徒歩速度よりもかなり遅いという特徴がありますので、火口から離れた平坦な箇所であれば、溶岩流の到達状況を確認しながら、歩いて避難することが可能です。実際にそのような場所では、溶岩流発生後も数十年かけて街(カラパナ)が復興してあるところもありました。

(写真-1)溶岩流の例1

(写真-2)溶岩流の例2

(写真-3)カラパナ近郊

5.ハワイ島の溶岩流危険地域地図
 USGSによってハワイ島の溶岩流危険域地図が作成されています。ハワイ島は全島が溶岩流によってできた島であり、安全といえる箇所はありませんが、危険度に応じて全島土が9段階に区分されています。最も危険なゾーン1(濃赤色)は、新たな噴火の際に火口となる蓋然性が極めて高い火山山頂と亀裂帯に相当し、ゾーン2(赤色)はそれに準じたゾーン1近傍と、順次、危険度ごとに色分けされており、最も危険度の低いゾーン9が、6万年前を最後に噴火していないコハラ火山の影響範囲になります。なお、後述する住宅街(レイラニ・エステート)はゾーン1に位置しています。

(図-2)ハワイ島の溶岩流危険地域地図 https://pubs.usgs.gov/mf/1992/2193/mf2193.pdf に著者加筆

6.2018年溶岩流のあらまし
 2018年の噴火では、2018年5月3日〜9月5日にかけて噴火活動が継続しました。最大の割れ目火口である第8火口はじめ複数の火口が、住宅街(レイラニ・エステート)中で発生し、総計20箇所以上の火口から流れ出た溶岩流により700軒以上の住宅が被災する大きな災害となりました。噴出率はおおむね100m3/s(50 〜300m3/s)、流出総量約8億m3DRE(DenseRock Equivalent:溶岩流換算量の意)(キラウエア火山では過去200年で最大規模であり、富士山貞観噴火規模13億m3DREの6割程度)、約35.5km2が溶岩流に覆われたと報告4)されています。

(図-3)2018年にできた火口群(発生順に通し番号)と溶岩流流下範囲(朱色)(HVO提供)

(写真-4)レイラニ・エステート 第24 火口付近
(後方に2018年の溶岩流の直撃を免れた住宅街と手前に溶岩流に被覆された旧住宅街)

(写真-5)2018年噴火では最大規模火口である第8火口クレータ(⻑辺直径約100m)

7.行政機関における噴火活動中の対応について
 平時より、ハワイ郡とHVOは連携・調整していたため、災害時には、迅速で円滑な情報交換を通じた的確な行政判断に繋がったようです。HVOは噴火の2日前(5月1日)に噴火発生の危険性を察知し、ハワイ郡に伝達されたため、郡長は、余裕を持って噴火対応をすることができたそうです。具体的には、5月1日未明にかけての火山性地震と地盤の膨張の様子から、プナ南部(レイラニ・エステートを含む地域)の亀裂帯において新たな噴火の恐れが高まった旨を住民に注意喚起するなどして、噴火時の緊急事態宣言後の対応に備えたとのことです。
 噴火時には、ハワイ郡のオペレーティングセンターにHVOを含む関係機関が集結し、24時間体制で臨機応変に対応していました(12時間交代)。HVOでは、常時火山監視をおこなっていますが、噴火直前からは、24時間体制でモニタリングする体制に切り替え、人員も全米からの応援により、職員を大幅拡充(30人→100人)しました。ドローンによる調査が安全かつ効果的(毎日3台を使い、24時間フライト)であったほか、地上踏査する研究者を複数配置等、火口と溶岩流の動態を常時とは異なる充実させた体制で観測し、溶岩流の現況を毎日更新して報告していました。
 ホノルルにあるHI-EMAは、各郡と米国緊急事態管理庁(FEMA)との連絡調整や緊急情報伝達、連邦軍や州兵の支援派遣要請をおこなっていたとのことです。例えば、VOG(火山性スモッグ)が充満している中で、安全な確保できる飛行高度を維持できるヘリコプターは軍のみが所有しており、十分な搭載量をもち緊急時の避難や輸送に大いに役立ったとのことでした。
 また州より、噴火活動中に対応してリスクコミュニケーション上の課題と対応について、以下の点についてご教示いただきました。本稿のはじめにも「総流出量としては200年に一度の規模の溶岩流」とご紹介させていただきましたが、このような(正確な)情報から、全世界の一般の方が受ける印象は左図のようなイメージであるということに気がついたということです。左図は誤りで、実際の被害は右図の範囲です。溶岩流やVOGの影響範囲を、市民や観光客に適切な警告をおこなうことに意を注いでいたのですが、世界的にセンセーショナルで概略的な報道がされた結果、ハワイ島内がすべて危機的な状況にあると誤解を与え、観光業に大きな影響を及ぼし始めたことに気がつき、その後は、ハワイ島の噴火の影響を受けていない地域についての情報も誤解されないよう報道することに留意されたとのことです。

(図-4)HI-EMAのプレゼンテーション資料より(左図は誤り、右図が実際の被害範囲のイメージ)

8.被災後の土地と住民
 住民のお話によると、レイラニ・エステート(2018)の溶岩流被災地では、国立公園化の構想が検討されているようです。地権者には、被災前の評価額での土地収用の打診がおこなわれているようでした。レイラニ・エステートは最も危険なゾーン1に相当するため、噴火の発生予測が失敗した場合には人的損失を生じる恐れが極めて高いことから、近年では土地利用の抑制が州の方針ではあったのですが、すでに街区整備のされた箇所でもあったため、従前の移転は進んでいませんでした。今回の災害をきっかけに、具体的な対応が進められつつあるようです。現地では、住民の方に火口の案内をしていただく対価として、寄付を求められました。観光資源としての溶岩流の価値を認識しておられることが印象的でした。
 カルパナ(2010年溶岩流被災地)では、すでに溶岩流の上に再居住される方々のお話を伺うことができました。インタビューを受けていただいた方によると、ご自身は溶岩流の写真家でもあり、溶岩流が好きでリスクを認識した上で居住し、ひとたび被災したが再建した旨のお話を伺いました。再建に当たっては、雨水利用や太陽光発電、公道までのアクセス道路を自ら整備したとのことです。カルパナ地区はレベル2に相当します。火口から流下する溶岩流の到達までに一定の時間を要するため、レベル1よりも避難は容易ではあります。

9.2018噴火時に行政による溶岩流対策施設整備を選択しなかった経緯について
 お話を伺ったいずれの機関(HIEMA、ハワイ郡市民保護局、HVO)においても、2018年度溶岩流に対する行政機関による噴火活動中の対策工事がなされたことはなく、今後の計画もない、とのことでした。
 ハワイ郡Kim郡長によると、自身も執筆に参加した国連報告書ʻVolcanic Emergency Managementʼ1985の発刊以来、基本的な考え方は変わっていないとのことです。同書には噴火時に実施される溶岩流対策として、過去には、爆破、導流堤、放水冷却など実施されたが、効果は一時的で限定的なものであり、最終的な溶岩流総量に対しては無力であったと総括されています。一方、電力事業者のような私企業が、自らの電柱を保全するための保護工を設置するような対策はなされることは2018年にもあったとのことでした。行政側が対策を躊躇する大きな理由の一つが、噴火最中には、その後の外力(物性、総量、噴出レートなど)を確定することが困難であることでした。想定される最悪のケースは、対策施設を整備したことにより、結果として、無施工であれば被害を免れた箇所が溶岩流の被害を受けてしまうリスクが考えられ、訴訟リスクを考えると選択できないと考えをいただきました。また、費用対効果が十分でない場合や、ハワイでは、古くから住民から続く信仰によると、溶岩流の化身である女神ペレを制御することは不遜であるとの考えから、溶岩流に対して対策工事をおこなうという行為そのものに否定的な文化的側面があることをあげておられました。これらの認識は、お話を伺った各機関及びヒアリング住民3名ともに共通した見解でした。

(写真-6)Kim郡長よりご提供いただいた国連報告書ʻVolcanic Emergency Managementʼ1985表紙

(写真-7)ハワイ郡訪問ミーティング(Kim郡長のスピーチ中)

10.まとめ
 ハワイ州、特にハワイ郡においては、HVOと密接な連携を図って噴火予測と噴火後の溶岩流の移動実態把握が迅速におこなわれていました。
 特に人的犠牲者を大きく軽減する上で重要な局面は、レイラニ・エステートという住宅街に生じた第8火口が出現する可能性を観測により事前にHVOが察知し、それを受けて郡長が住民の避難をすみやかに指示、実行したオペレーションにあったと思います。我が国においても、溶岩流を伴う噴火の事前察知と避難の徹底が溶岩流による人的被害軽減は極めて重要であることを示唆するものであったと思います。
 ハワイ州、ハワイ郡と各研究機関では、日頃から、津波や溶岩流等の様々な災害シナリオを想定した危機管理時のブレーンストーミングを実施しているとのことです。例えば、ハワイ郡の場合で複数の溶岩流ルートによって住民や観光客が孤立してしまう様な場所はどこか、そのときの救助オペレーションとして、選択できる運搬手段は何か、そのために確保しておくべき資材は何か、必要なドリル(訓練)は何かなど、平時から、フランクな形で話し合える場が設けられているとのことでした。我が国でも、このような行政と研究機関が一同に会したブレーンストーミングを通じて、すみやかな安全な避難の実施のために取り組むことが重要であると感じました。
 最後に、ハワイ州、ハワイ郡、HVOやヒアリングにご協力いただいた地元の方に感謝申し上げます。本稿の一部が、今後の火山防災の参考になれば幸いです。

(写真-8)キラウエア山視察時の集合写真

(写真-9)調査団長丹羽補佐(当時)よりKim郡長へ記念品の贈呈

参考文献
1) 丹羽俊一:米国ハワイ島キラウエア火山における溶岩流対策調査に参加して、治水と砂防254、Vol.53.No.1、p17-19、2020 
2) 権田 豊ほか:アメリカ・ハワイ州における溶岩流対策に係る土砂管理手法の運用実態等に関する調査、令和2年度2020砂防学会研究発表会(投稿中)
3) 山本 望:2018年キラウエア火山噴火における自治体・研究機関の対応、土木技術資料62-7(2020)(投稿中)
4) The 2018 rift eruption and summitcollapse of Kīlauea Volcano, Neal et al.,Science 363, p367-374(2019)

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