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国際関係

日本の砂防を世界のSABOに−開発途上国での活用を目指して−

※こちらは、機関誌『SABO』Vol.125の内容を載せております。

◆日本の砂防を世界のSABOに−開発途上国での活用を目指して−

1.はじめに
 一般財団法人砂防・地すべり技術センターでは、国際協力機構(JICA)からの委託によりJICA課題別研修を30年に亘り実施しています。この間に40カ国から280名の研修員を受け入れてきました。コース名は何度か変更していますが、現在の「土砂災害防止マネージメント(豪雨、地震、火山噴火起因)」となってからは、2018年度で5回目の実施となっています。
 本研修では、土砂災害防止事業に関わっている機関の技術系行政官(主に土木技術者、地質技術者等)を対象とし、研修で得た知識や技術を土砂災害防止対策に直接活用してもらうことを目指しています。
 今年度は2018年9月24日から同年10月20日までブラジル、エクアドル、インドネシア、イラン、ジョージア、パキスタン、ペルー、ミャンマー、フィリピン、ベトナム、東ティモールの11カ国から12名(フィリピンは2名)の研修員が参加しました。
 ここではその実施報告をします。

2.研修概要
 研修の冒頭では、土砂災害防止事業に携わる者として具備すべき防災/減災全般に関する基礎知識、官民を問わず関係者が連携を取りながら各々の役割を果たすことの重要性に加え、砂防概論として土砂災害防止法、日本の砂防事業と土砂移動現象のメカニズム及びその対策手法等の概略を学びました。
 今年度はJICAの事情により研修期間が2017年度の2 ヶ月から1ヶ月に短縮されたため、短期間に研修成果を挙げる必要があり、砂防概論以降の研修カリキュラムは、各国の土砂災害危険箇所を抽出し、発災時の被災範囲の推定とリスクアセスメントを行い、取るべき構造物及び非構造物対策を検討リストアップし、予算等の制約を考慮して帰国後実施可能な対策とその推進のためのプロジェクトの形成を目指したものとしました。
 加えて、帰国後本研修で得た知識、技術を活用できることが重要であることから、予算や人材等の制約を抱えながら、活用できるものから実践することができるよう、実習、演習をできるだけ取り入れるようにしました。
 このような研修ではハード対策の技術に研修員の関心が集中しがちですが、対策の検討に有用な過去の災害や降雨量等に関するデータの取得とそのデータベース化の重要性、アクセス可能な国際的データの利活用、住民の正常化の偏見(自分にとって都合の悪い情報を無視または過小評価してしまう人間の特性)への対応、地形の特徴を示し安全な避難経路を住民自身が参加確認できる段ボールジオラマ立体地図によるワークショップ等を講義及び演習として取り入れ、研修員にとっては非常に新鮮で有効な刺激となっています。
 研修の最終成果となる対策推進プロジェクト形成のために、JICAが事業運営管理、評価に活用するプロジェクト・サイクル・マネージメント(PCM)手法の講義とワークショップも取り入れました。この手法は研修員が帰国後JICAや国際機関へ協力プロジェクトを要請する際のプロポーザルの作成にも有用なものです。更に、同時期に富山で開催された当該分野の国際シンポジウム「インタープリベント2018 In 富山」に参加し、日本国内外の新たな知識・技術、情報を得るとともに、ポスターを作成展示し自国の土砂災害を紹介しました。そこでは日本は元より海外からのシンポジウム参加者の質問に一生懸命対応する研修員の姿が見られました。また、エクスカーションで立山カルデラの砂防施設見学や工事専用軌道への乗車も行いました。
 期間短縮への対応として、研修の一部を構造物対策と非構造物対策の2グループに分けて実施しましたが、別グループの研修内容が必要であっても受講できないため、分けずに実施してほしいという研修員からの要望が寄せられました。
 2016年度の研修からJICAの提言を受けて導入しているActiveLearningは、研修員間のコミュニケーションや当事者意識の醸成に有効であり、Weekly Feedback Sheetでの研修内容の再確認は、研修で学んだ技術の活用の可能性を高めることに役立っています。また、防災機器メーカーの方から無償で、その活動や防災製品の紹介をしていただきました。防災に対する民間企業の取り組みについても、研修員は高い関心を示していました。

      

3.成果
 JICAの要請により期間を短縮しましたが、その一方で、研修の実効性、有用性を確保する必要があり、カリキュラムの編成に苦心しました。しかしながら、結果として研修が目指すところが明確になり、その達成に必要なものに集中したカリキュラムを組み立てることができました。研修終了時の評価アンケートでは、12名の全研修員が研修目標を達成(内9名は十分に達成)、またプログラムの構成も8名が適切であると回答しました。成果発表においては、テーマを「帰国後6ヶ月以内に自国の土砂災害危険箇所で取り組むことができる構造物または非構造物対策を選定し、その取り組みを推進するプロジェクトの形成」としたところ、各国の予算不足が構造物対策の実施に消極的になっていることを背景に、途上国でも比較的実施可能性が高い非構造物対策である早期警報システムの導入や住民への啓啓発動が多く述べられました。ただ、啓発活動を行えばかならず住民は参加するもの、避難計画を理解し一定以上の雨量があれば、或いは警報が出れば住民はかならず自主的に避難するものという前提条件付きであり、実行の難しさが課題となりました。
 なお、今回初めての試みとして、研修員に対しスカイプによる来日前協議を実施しました。通信事情により全員と行うことはできませんでしたが、日本に出発する前に協議できたことで研修目的や事前に準備すべきデータ等に関する理解が深まったものと考えております。

4.今後に向けて
 評価アンケートにおいて、研修期間については研修員の多くが短いと回答しています。その理由として研修の一部を構造物、非構造物対策に分けたこと、短時間で学ぶことが多く余裕がないこと、現地見学が少ないこと等が挙げられております。
 2019年度の実施に関しては、これらのコメントにも配慮した研修を組み立てていきたいと考えています。具体的には今年度のカリキュラムに加え、福山市の堂々川砂溜群のような「ローコスト工法」の事例見学の組み込み、予算や人材不足に対応できる手段として民間資金の活用やNGOとの協働の事例、また観光促進等他産業と組み合わせた砂防施設の整備や、住民による砂防施設の維持作業の事例見学などです。現実的な取り組みに必要な技術知識と考えられるため、ぜひ組み込んでいきたいと考えています。

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