STCの取り組み

災害緊急調査

平成30年大分県中津市耶馬溪金吉で発生した土砂災害に係る災害調査

※こちらは、機関誌『SABO』Vol.124の内容を載せております。

◆平成30年大分県中津市耶馬溪町金吉で発生した土砂災害に係る災害調査」参加報告

1.はじめに
 平成30年4月11日未明、大分県中津市耶馬溪町金吉の梶ヶ原地区において、無降雨時にも拘わらず、突発的に斜面崩壊が発生した(図-1)。大分県の公式発表では、建物4棟が被災し、6人の住民の方が亡くなった。
当センターでは、4月29日に行われた現地調査に、(公社)砂防学会九州支部をはじめとする調査団の一員として、砂防部長 長井、主任技師 厚井、そして、砂防技術研究所調査役 山越が参加した。また、5月15日に主に大分県が中心となって実施した周辺住民への聞き取り調査には、長井が参加した。
 これらの調査結果は、砂防学会誌1)に災害報告として掲載されており、発生した土砂移動現象に関わる誘因・素因に関する検討結果についてはそちらを参照されたい。本稿では、当センター職員が参加した現地調査、聞き取り調査の状況について報告する。

(図-1)

2.調査概要
2.1 露頭調査
 今回の崩壊の発生機構は、湧水点付近を起点とした小規模な崩壊が先行して発生し、その後、この小規模崩壊地の上部に厚く発達していた崖錐堆積物が支えを失って大規模に崩落したと想定された1)。地上踏査では、崩壊地上部の滑落崖付近および湧水点付
近より下部の土砂移動状況、崩壊地周辺の状況を確認した。
 崩壊地上部の滑落崖では、溶結部と非溶結部からなる約100万年前の耶馬渓火砕流堆積物の露頭が観察でき、上部の溶結部は柱状節理が発達し急崖をなしている(写真-2)。崩壊斜面と隣接する非崩壊斜面上には巨石が点在しているのが確認でき崖錐が発達していた(写真-3)。崩壊斜面においても崩壊発生前は崖錐が発達していたと推察され、滑落崖直下には、崖錐堆積物の一部が残存していた(写真-2)。また、崩壊斜面上部にもともと成立していたスギがあまり乱れることなく滑落崖方向に一様に倒れかかかっており、表面上は大きな攪乱は生じていなかった(写真-4)。
 湧水は標高220m付近からあり、4月29日の調査時点でも流水が確認できた。湧水点付近より下部の地質は300万年前の新規宇佐火山岩類で、湧水点付近で発生した小規模崩壊斜面上には崩壊土砂は残存しておらず、固くしまった凝灰角礫岩の地層が観察できた。一方、小規
模崩壊地に隣接する斜面上には上部の崖錐堆積物と想定される崩壊土砂が斜面上に堆積していた(写真-5)。また、この斜面と小規模崩壊地の境界付近ではもともとの草本植生が残っている箇所も確認できた(写真-6)。

(写真-1)

2.2 現地調査(ドローン調査)
 無人飛翔体(UAV)を用いた被災地調査は、平成12年の有珠山噴火が最初であるが、当時は、画像を得るために、4、5人がかりで農薬散布用のヘリコプターを改造した機体を飛ばして実施した2)。近年、ドローンと呼ばれる複数のプロペラを持つ操作性に優れた安価な機体が普及し、国土交通省でも、九州技術事務所が土砂災害調査へ先駆的に活用を進め、最近の災害調査では、地方整備局職員が災害調査に活用するようになっている。
 UAVによる調査の利点は、①調査者の安全が確保されること、②有人機を用いた調査より大幅に安価であること、そして、③現地調査時間の短縮が図れること、である。今回、(公社)砂防学会による現地調査の迅速かつ安全な実施に資するため、当センター所有のドローンを
調査に活用した。調査には、DJI社製Phantom 4 Proを用いた。同機体は、4K動画を撮影可能な高解像度のカメラを搭載し、一つのバッテリーパックで約30分飛翔することができる。今回は、約20分間飛行し、地上踏査では到達できなかった崩壊源頭部を主に調査した。
 写真-7は、この崩壊地を上空約100mから撮影した写真である。そして、写真-8は、写真-7の赤枠内の滑落崖部分にほぼ10 〜20m程度までドローンを近接させて撮影した写真である。拡大すると、亀裂や木の根の一本一本が判別できる。このように地上からは危険で接近し難い滑落崖もこのように詳しく見ることができる。
 今回の調査では、現地踏査で下から近づけなかった滑落崖をドローンで撮影し、映像を大型の液晶スクリーンにリアルタイムで表示して現地で調査団員に見ていただいた(写真-9)。団員の要求に応じて、機体を接近させたり、転回させたりしながら、映像を提供し、観察に活用していただいた。

2.3 聞き取り調査
 5月15日に大分県中津市耶馬溪支所のご協力により崩壊地直下及び周辺住民の方々への聞き取り調査を行った。
 崩壊発生前の当該斜面について、以前は斜面の中を通り、上部の台地まで歩いていたが、最近は付近を通っていないので崩壊斜面の様子はわからないということとあわせ、崩壊発生が午前3時から4時頃であったため前兆現象を見たり聞いたりした住民はいなかった。写真-2、写真-3のように普段から斜面内に転石がたくさんあり、地震があると落石も発生していたことがわかった。崩壊地直下の被災された住民は、斜面からの湧水を生活用水として利用していた。
 崩壊発生時の状況については、「午前3時半頃、地響きのような音を聞き、その後、4時前に再び大きな音を聞いた。崩壊斜面近くに行ったとき暗くて見えなかったが、水が噴き出すような激しい音が聞こえた。」という話や、崩壊地直下の自宅が被災された方から「自分は、当時家にはいなかったが、3時40分頃に家族から『土と石が家に入ってきた』と電話があり話し声とともに水の音も聞こえた。」という話を聞いた。
 このほかに崩壊直前にこのあたりをねぐらにしている猿の群れがが大きな叫び声を上げていたという話もあった。

3.おわりに
 本稿では、(公社)砂防学会九州支部等による調査に当センターから参加した職員の関与した現地調査、聞き取り調査の概要について紹介した。今回の斜面崩壊により6名もの尊い人命が失われた。亡くなられた方々のご冥福をお祈りする。

参考文献
1) 久保田ら(2018):2018年4月11日大分県中津市耶馬溪町で発生した斜面崩壊、砂防学会誌Vol.71、No.2
2) 仲野ら(2000):GPS搭載自律型無人ヘリコプターによる有珠山噴火災害調査、土木技術資料、平成12年6月号グラビア

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