自主研究レポート

 自主研究として実施した、土砂移動実態の把握とその解明に関する研究、土砂移動現象の分析と表現手法に関する研究、砂防ソイルセメント工法や砂防構造物に求められる機能と構造(高度な砂防施設の開発)に関する研究などの概要や結果について紹介します。

令和元年度自主研究レポート

1.土砂移動シミュレーションに関する研究
(1) Real Time Hazard Mapシステムに関する研究
 本研究は、噴火等の緊急時に実際の火山活動状況を反映させたシミュレーションを迅速に実施するため、国土交通省が運用しているリアルタイムハザードマップ作成システムと同等の機能を有するシステムを構築することを目的として、使用するソフトウェアやデータの受け渡し方法、サーバー構成など全体の仕様定義およびシステム構築を実施した。
 シミュレーションプログラムは当財団が独自に開発・高速化したJ-SASを用いることで、溶岩流・火砕流・融雪型火山泥流・降灰後土石流の計算時間を、それぞれ従来比で1/4~1/20に短縮した。また計算条件の入力と計算結果の図化をGIS上で行い、火口位置や影響範囲を迅速に把握することができるよう変換プログラムの作成、サーバーへのシステム構築ならびに運用試験を行った。

(2) 河床変動計算手法に関する研究
 本研究は、土砂・洪水氾濫対策を検討するにあたり使用される一次元河床変動計算について、専用プログラムを必要とせず表計算ソフトなどで簡易に計算が可能であり、かつ土石流中の細粒分が間隙流体に取り込まれる(フェーズシフト)ことにより下流により多くの土砂が流下する現象を再現する手法について調査・研究を行った。また赤谷川で発生した土砂・洪水氾濫の実績を用いてEXCELで再現計算を行い、現象の再現性や計算手法の適用範囲、運用上の留意点等を調査した。 

2.新たな砂防工法に関する研究
(3) 緊急ハード対策に関する研究
 本研究は、火山噴火等に起因する土砂災害の発生前後において整備する緊急ハード対策について、求められる条件を整理した上で要求性能を検討し、既存資材の組み合わせや新工法を検討するものである。過年度の研究では近年の緊急ハード対策の事例と現状の課題について整理し、緊急ハード対策として使用可能な材料とその特性について検討した。また、整備する場の条件(時間的な制約・場所等)、対策実施の目的を明確にした上で、実施期間・実施場面・構造と使用材料を検討した。本年度は、上記の検討結果に基づいて、融雪型火山泥流とそれに含まれる流木を捕捉するための緊急ハード対策について、実施期間を1ヶ月と想定し、アクセスしやすい道路沿いや渓流部に縦坑を掘削し、そこに調達・運搬・設置しやすいH形鋼を建て込む簡易な構造を検討した。

(4)砂防ソイルセメントの材料特性に関する研究
 本研究は、土砂的強度特性のソイルセメントの材料特性を把握し、管理方法を確立することを目的としている。ソイルセメントは材料強度によって礫衝突に対する変形特性が異なる。そこで、強度2N/mm2以下となるよう、細粒分含有率の違う5種類の供試体を、それぞれ流動タイプ・転厚タイプの2種類の方法で作製し、重錘落下実験を行って変形性能および衝撃力吸収性能を測定した。また、強度以外に構成材料(粒度特性)による変形性能を調査した。

(5) 土砂・洪水氾濫対策の工法に関する研究
 本研究は、土砂・洪水氾濫対策としての遊砂地工(堆積工)について、遊砂地工空間に効率よく、効果的に土砂を堆積させる(低水路が土砂により閉塞され堰上げが確実に発生する)砂防施設を開発することを目的としている。本年度は、遊砂地工検討箇所の現地調査および既往文献の収集・整理を行った。また、調査結果を踏まえ、直線水路を用いて定流状態における水理模型実験を実施して土砂堆積状況の確認および検証を行った。
 
(6) 多様な材料を用いた新たな砂防工法に関する研究
 本研究は、土石流中の巨礫の衝突によって砂防堰堤のコンクリートが損傷する事例から、その対策に用いる素材の一つとしてゴム製チップ材に着目し、衝撃緩衝効果について調査・研究したものである。方法は、φ5mm以下のゴム製チップ材を固化させて円盤状のゴムマットを作成し、重錘落下試験において衝撃緩衝効果を評価した。重錘落下試験では、ゴムマットの下の躯体に発生する衝突荷重をひずみゲージを用いて測定し、マットがない場合を1として衝突荷重の低減率を求めた。その結果、実験室レベルではおよそ90%程度の衝突荷重低減効果が得られた。以上より、ゴム製チップ材が衝突吸収材として有効であることが示唆された。

3.土砂災害実態に関する研究
(7)土砂災害と避難行動に関する研究
 平成30年度までに実施した、平成29年7月九州北部豪雨災害に関する住民アンケート調査及び区長ヒアリング、空中写真判読、雨量解析の結果を地区単位に再整理し、赤谷川流域、黒川流域、疣目川流域の土砂移動の時系列について詳細に分析を行ったものである。分析に際し、新たにX-RAIN(250m格子)のデータを用いて地区単位の降雨分布を詳細に把握した上で、土砂移動に関する異常及び川や沢の異常を見聞きした場所と時間の推移、土砂移動現象に関する区長へのヒアリング内容を整理し、空中写真判読による崩壊発生位置及び土砂移動状況とを対比して、流域内の土砂移動時系列を推察した。

(8)土砂災害情報の高度化研究
 本研究は土砂災害警戒情報を避難行動に結びつけるための方策を検討するため、①土砂災害警戒情報の最適化に関する研究、②SNSを活用した土砂災害危険度評価システム構築に関する課題整理を行ったものである。①については、いくつかのモデル地域(市町村)を対象として地質特性に応じたタンクモデル係数等を適用した場合の災害捕捉率や見逃し率等への影響を把握した。②についてはTwitter情報を用いた土砂災害発災推定情報と実際にアンケート調査等で把握した土砂災害発生の時系列を対比し、土砂災害の発生危険度評価にTwitter情報を組み込む場合の課題を整理した上で今後の方策等について検討した。

(9)土砂災害の実態に関する研究
 本研究は、これまで国や地方自治体が実施されてきた土砂災害対策事業の事業効果(土砂災害発生数の減少、発生規模の軽減、人的被害の減少等)を、定量的に把握することを目的に実施したものである。本年度は、当センターで発刊している「土砂災害の実態」に記載された土砂災害発生数や発生形態(土石流等・地すべり・がけ崩れ)を基に、土砂災害発生傾向や土砂災害による被害状況の発生傾向について整理・分析し、土砂災害対策事業効果について検討した。
その結果、同一地域で同程度の豪雨時を経験した事例を比較すると、より直近の豪雨による土砂災害被害の方が少ない事例が多く確認された。これは施設整備効果の発現によるものと推測される。

4.火山地域における土砂流出に関する研究
(10)噴火様式の違いによる火山噴出物の性状に関する研究
 本研究は、土砂災害緊急情報の第二報以降の雨量基準設定に関する検討の基礎資料を収集することを目的として、現地で採取した火山灰試料(富士山1707年宝永噴火による降下スコリア堆積物、北海道駒ヶ岳1929年噴火による軽石質の火砕流堆積物、樽前山1739年噴火による降下軽石堆積物)を用いて室内での散水、排水実験を実施し、降雨に対して火山灰堆積物がどのような透水性、保水性、排水性を示すかを把握した。最初の降雨を想定した実験では、雨量強度が強いほど急激に保水するが保水量が多くなる訳でなく、散水終了後の排水量は10%程度で、多くは保水した状態のまま維持されることが明らかとなった。一方、繰り返し降雨を想定した実験では、保水量が徐々に増加する傾向が認められた。これらから、初期の降雨に対しては保水効果や透水効果によって土石流発生の危険性が抑えられるものの、降雨を複数回繰り返すことにより吸収量は低下し、土石流発生の危険性が高まることが想定された。多様な噴火様式に対応した雨量基準の設定のため、火山灰堆積状況下における降雨流出解析に用いる透水係数、初期損失雨量等の適用についての研究を進めていくことが重要となる。

(11)火山地域における土石流発生等に関する研究
 本研究は、火山地域における土石流対策で重要となる土石流ピーク流量とその流出土砂量の予測に資することを目的として、土石流発生源から土石流侵食(発達・流下)区間に至る土砂移動・流動特性とその縦断変化を把握し、土石流移動メカニズムならびに土石流ピーク流量と流出土砂量について分析するものである。過年度の研究では土石流発生頻度が高い桜島の野尻川を対象に過去の土石流観測結果と降雨状況の分析を行い、土石流ピーク流量の縦断変化に基づく土石流の到達地点を把握し、保全対象に到達する土石流と到達しない土石流の発生降雨を検討した。本年度は、桜島の野尻川を対象に、UAVを用いた土石流の発生源を推定するとともに、土石流ピーク流量の解析地点を増やして、より精度の高い土石流ピーク流量の縦断変化を把握し、土石流ピーク流量と流出土砂量について分析した。

5.直轄地すべり対策事業における完了事例の研究
(12)直轄地すべり対策事業における完了事例の研究
 地すべり等防止法第10条により着手され、平成16年1月に策定された「完了目安」により直轄地すべり対策事業を完了した地すべり防止区域は「下嵐江地区」「赤崎地区」、「豊牧地区」、「黒渕地区」、「芋川地区」、「此田地区」などが列挙される。これらの完了方法や考え方は、事業スケジュールの管理や必要な事業費を得る為のシナリオ作成に寄与すると共に、新規直轄事業の提案、採択時や事業のグランドデザイン作成時の基礎資料になり得るものと考える。
 本研究では、今後の直轄事業の進め方や完了への準備、新規直轄提案や事業評価時の基礎資料として、担当部局や担当実務者にとって有益な手引きになる、各地区での共通事項や特性を系統的に取り纏めた「直轄地すべり対策の完了手順、及び事例集」を作成する。
本年度は2ヶ年計画の1年目として、これまでに完了した7地区についての諸元等を整理し、各地区の判定における特徴をとりまとめた。
6.透過型砂防堰堤の渓流環境に対する効果に関する研究
(13)透過型砂防堰堤の渓流環境に対する効果に関する研究
 本研究は、透過型砂防堰堤の渓流環境への負荷軽減効果をの確認し、渓流環境の保全に配慮した透過型砂防堰堤の構造や機能のあり方を検討することを目的としており、本年度は透過型砂防堰堤が設置されている河川において生物調査、物理環境調査を実施した。
生物調査については、魚類を対象に電気ショッカーによる直接採捕と環境DNA分析による魚類生息調査を実施した。物理環境調査については、水深、流速、浮き石率、地表面粒径を調査した。
 調査の結果、ある調査対象渓流では、不透過型砂防堰堤が設置されている左支川と透過型砂防堰堤が設置されている右支川のどちらにおいても、それぞれの堰堤下流で確認されたヨシノボリ類が堰堤上流では確認されなかった。このことから、不透過型砂防堰堤については堰堤本体の落差、透過型砂防堰堤については透過部に流木が堆積したことによって生じた落差より生息環境の分断が生じたと考えられた。
 また、コンクリートスリット堰堤が設置されている別の調査対象渓流では、ヤマメの生息密度が堰堤下流に比べ堰堤上流が低いことが確認された。調査地点の間に常時流水がある渓流が無いことから、コンクリートスリット堰堤が魚類の遡上の障害となっていることが考えられた。
 以上から、透過型砂防堰堤は不透過型砂防堰堤に比べて、渓流環境への負荷軽減効果があることが確認された。引き続き、透過型砂防堰堤について調査を進め、維持管理方法や構造の面でさらに改善、改良手法を検討していくものである。

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