自主研究レポート

平成29年度自主研究レポート

1. 土砂移動実態の把握とその解明について
(1) 土砂災害発生状況に関する研究
 本研究は、土石流災害時に緊急調査として、土石流による被害率を算定するための土砂堆積厚さ等に関するデータを蓄積するとともに、調査結果をSTCの技術力向上のための様々な解析に活用することを目的として実施した。
 本年度は、平成29年7月5~6日にかけて土石流等の土砂災害が発生した福岡県朝倉市の複数の渓流を調査対象として、現地調査により土石流の到達範囲、土砂堆積厚の分布及び家屋等の被災状況を確認した。

(2) 無人ヘリコプターレーザー計測を用いた土石流発生源の推定に関する研究
 本研究は、中日本航空株式会社と共同し、同社が開発しているUAVに小型レーザースキャナを搭載した航空レーザー計測システム「TOKI」(以下「TOKI」)を利用し、災害後などで人の立ち入りが危険な場所の地形データの取得や、微地形・微細な土砂移動現象を把握することを目的として実施した。
 本研究は3カ年での調査を予定しており、平成27年度は、樽前山において現地検証を行い、土砂移動現象の把握能力の確認、実運用に向けた課題を抽出した。平成28年度は、実際の土砂移動現象等の把握への適用性検証として、奈良県五條市赤谷地区の崩壊地を対象に、1降雨による土砂移動量の把握を実施した。
 本年度は、奈良県五條市赤谷地区の崩壊地を対象に、同一時期に有人機LPとTOKIによる計測を実施して、両者の比較を行った。また、二時期の比較を有人機LPとTOKI、TOKI同士、有人機LP同士、有人機LPと精度を落としたTOKIで行うことなどで、有人機LPとTOKIの使い分けを検討した。
 
(3) 深層崩壊に対する減災対策に関する研究
 本研究は、①深層崩壊に起因する土砂災害の被害を軽減、②深層崩壊に起因する土石流を対象とした施設設計の考え方を整理、することを目的として実施している。
 本年度は、2回の研究会を開催し、施設設計上の課題等について検討した。

2.土砂移動現象の分析と表現手法について
(4) 砂防基本計画に関する研究
 本研究は、砂防基本計画の対象現象として「大規模崩壊後の中期的な土砂移動現象」を位置付けるために、概念整理や中期の土砂移動現象に対する砂防設備の効果評価手法の検討を目的として実施している。
 本年度は、魚野川上流域をモデル流域として中期的な土砂移動における河床変動計算を実施するためのハイドログラフの設定方法や土砂供給方法に関する議論を行い、中期的な土砂移動のシミュレーションを実施した。中期的な土砂移動における被害形態や施設効果を議論するために有識者を中心とした「砂防基本計画研究会」を設立し、中期的土砂移動を対象とした砂防基本計画について検討した。

(5) ニューラルネットワークによる地すべり観測データの異常値検知と再現・予測手法に関する研究
 本研究は、ニューラルネットワーク(NN)法を用いて、地すべり観測データの異常値検知の定量的判断基準案を提案するとともに、地すべり観測データの再現・予測の解析手法および解析手順等をとりまとめることを目的に実施した。
 観測データの再現・予測に関する研究は、過去において単回帰分析から多変量解析まで、線形解析から非線形解析まで様々な取り組みがなされてきている。その中で、地すべり地における観測データを対象にしたNN法による研究は1990年代まで積極的に取り組まれていた。
 本年度は、砂防・地すべり等の分野における既往NNに関する論文等の収集し、それぞれの論文のテーマを整理するとともに時系列的に整理してとりまとめた。また、収集論文における課題とNNに関する研究の最新動向についてとりまとめた。
 
(6) 火山地域における土砂流出に関する研究
 本研究は、火山地域における土石流対策で重要となる土石流ピーク流量とその流出土砂量の予測に資することを目的として、土石流発生源から土石流侵食(発達・流下)区間に至る土砂移動・流動特性とその縦断変化を把握し、土石流移動メカニズムならびに土石流ピーク流量と流出土砂量について分析するものである。
 本年度は、まず土石流発生頻度が高い桜島の野尻川を対象にUAVにより土石流発生源の写真撮影を行い、流域状況(火山噴出物の堆積状況等)の把握を行った。また、降灰後土石流の発生原因(誘因)の一つである火山灰の含水状況について、噴火後に現地調査が実施困難な状況が想定されるため、火山灰の表面における反射スペクトルと粒径・粒度、含水状態の関係を事前に室内実験によって計測することにより、非接触かつ迅速な火山灰の物理情報を得る手法について検討した。

(7) 土砂災害情報に関する研究
 本研究では土砂災害情報に関する研究として、①避難シミュレーションに関する研究、②土砂災害情報と避難行動に関する研究、③南阿蘇村での雨量情報の提供を実施した。
 それぞれ、①避難シミュレーションに関する研究では、地震や津波、洪水災害等を対象に開発されている避難シミュレーションに関する文献を整理した上で、避難シミュレーションを実施している研究者との意見交換を行い、避難シミュレーションの火山災害への適応性について検討した。
 ②土砂災害情報と避難行動に関する研究では、H29九州北部豪雨災害(赤谷川及び黒川流域)を対象に、既存資料及び詳細な降雨データの整理、空中写真判読、区長等への聞き取り調査等を実施し、避難のあり方と留意点について考察した。
 ③南阿蘇村での雨量情報の提供については、平成28年度に雨量計を設置し、保守・点検を行い継続的に雨量情報を提供したものである。

(8) メッシュタンクモデル法を用いた表層崩壊危険箇所抽出技術に関する研究
 本研究は、豪雨時に発生する表層崩壊の発生箇所や規模を数値シミュレーション手法で推定することを目的に実施している。
 本年度は、早川流域でS57年に発生崩壊箇所を検証材料として整理し、メッシュタンクモデルという数値シミュレーションモデルを用いて、S57年に早川流域で発生した崩壊の箇所と規模を地形と降雨分布に関するデータのみで、どの程度再現できるかを検討した。
 その結果、流域ごとの崩壊面積率等については実現象と整合性が見られたが、個別の崩壊箇所や規模については、地形データと降雨分布データのみでは再現できなかった。今後は植生や遷急線の位置など、単純な地形だけではなく崩壊が多く発生している地形の情報などを加味したモデルの検討が必要であることが分かった。

(9) 細流土砂を含む土砂の流下特性に関する研究
 本研究は、石礫型土石流と細流土砂を含む土石流の流動機構の違いを把握するために、土石流に含まれる粘土成分の割合に着目し土石流の流下特性の違いについて水理模型実験を行い整理した。
 実験は、濃度が同一で、かつ粘土成分の含有率が異なる実験砂を4種類作成し、石礫型土石流では堆積する河床勾配で土石流流下に関する水理実験を行い、粘土成分の含有率と土砂の流動性(流下速度、堆積土砂量)の関係を整理した。
 また、上記の4種類の実験砂を攪乱し、土砂の沈降速度の違いを時間ごとに整理し、細流土砂を含む土砂の流下特性を整理した。

3.砂防構造物に求められる機能と構造について(高度な砂防施設の開発)
(10) 重力式コンクリート砂防堰堤の打継ぎ目の強度に関する研究
 近年の計画規模を越えるような集中豪雨等により発生する土石流により,重力式コンクリート砂防堰堤の堤体および袖部が破壊される事例が見受けられる。これらの破壊形態を調べると打継目から分離して下流に流出している事例が多いことがわかっている。これは、コンクリートの打継目強度が健全部よりも低いためと考えられるが,安定計算において堤体が一体化していると仮定して現状とは違う実態であると考えられる。しかし,既設堰堤の打ち継ぎ目の強度を健全部と比較した事例はほとんど見られない。そこで、本研究は全国から8カ所の既設の重力式コンクリート砂防堰堤を選定し,健全部と打継目からコアを抜き,圧縮試験および割裂引張試験を実施し,打ち継ぎ目の強度低下度合いを調査した。

(11) 堤体に作用する土石流荷重に関する研究
 深層崩壊などの大規模土石流に対して,堰堤の安定計算を行うと現実的ではない断面が算定される。この理由は,土石流による上載荷重が大きいためであるが,満砂した堰堤の破壊形態を見ると袖部の破壊がもっぱらであり,安定性(転倒,滑動)を損なう事例は見られない。そこで,土石流による上載荷重が基準で示されているような荷重図になるか検証した。水路模型下端設けた不透過壁の高さ方向に水圧計と土圧計を設置し,その上流に砂または礫を敷き詰め満砂状態を再現した。この堆砂敷に重量物を移動させ,荷重計の変化を測定した。この結果,重量物の移動速度が速いほど,上載荷重が小さいことが確認された。これは満砂状態の堰堤に土石流が通過しても,袖に流体力は作用するが,安定性には影響しないことを示唆している。

(12) 不透過型砂防堰堤に流木捕捉機能を付加する工法に関する研究(自主研究 兼 共同研究(シバタ工業株式会社))
 既設の流木捕捉工は,水通し部に柱を並べ流木を捕捉するものがもっぱらである。しかし,このタイプを既設の不透過型砂防堰堤に設置すると,コンクリートを削るなど工事規模が大きくなる。また,既設堰堤は本副間の水褥池面積が小さく,流木捕捉容量が足りない場合が多い。そこで,本研究は、この従来の流木捕捉工の欠点を払拭する新たな流木捕捉工を開発し,近年問題が顕在化している土砂災害発生時の流木流出に貢献させようとするものである。流木捕捉部材は,従来の柱状に代えて,下流に緩く傾斜するものとした。この形状により洪水時に水面に浮いて流下する流木は,水面の変化に合わせ捕捉面を移動するため,水面から河床まで空間を確保することができる。このため,礫はこの開口部から通過する。すなわち,流木を捕捉し,礫は通過させるといった流木捕捉工本来の機能を期待したものである。本年度は,新タイプ従来タイプの流木捕捉能力の違いを調べるため水理模型実験を行った。

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