土砂動態シミュレーション技術

土砂移動現象に対する数値シミュレーションの必要性

土石流・泥流・火砕流・溶岩流などの土砂移動現象は、質量・運動量・エネルギー保存則を記述する複数の偏微分方程式に基づいて定式化できます。理想的な初期条件や境界条件が整えば、これらの偏微分方程式系から厳密解を解析的に導出することも可能ですが、実際の現象は降雨や火山噴火などの複雑な供給条件、さらに堆積や侵食といった地形との相互作用の影響を受けるため、厳密解を得ることは困難です。したがって、偏微分方程式系を離散化し、数値解法を用いてコンピュータ上で解析する数値シミュレーションが必要となります。こうした数値シミュレーションにより、土砂移動現象の物理過程の分析や対策施設の効果評価が可能となります。

New-SASSとは

STCが開発した二次元氾濫数値シミュレーションモデル(特許 第3960425号)で、火山噴火による泥流など大規模な土砂移動現象も高精度で影響範囲、到達時間などを求めることができます。

(1)砂防施設の効果を適切に評価できる

  • 砂防えん堤による堆砂、せき上げを定量的に算出可能
  • 施設直下の洗掘等を適切に表現可能

(2)従来以上に、高精度な解析結果を得ることができる

  • 通過する流量を高精度に算出可能
  • 計算と実現象での到達時間がほぼ一致

(3)解を安定に求めることができる

  • 適切な差分方法により、計算の異常終了がない
  • 地形が急変化する地点でも、異常な土砂の堆積がない

大正泥流の再現計算

到達時間の分布

砂防堰堤配置時の縦断形状

数値シミュレーション活用時の留意点

数値シミュレーションを実施・活用する際には、解析結果において「不確かさ」が内在する点に留意する必要があります。不確かさとは、解析結果が実現象をどれほど正確に再現しているかを判断するための指標であり、様々なモデリング過程での知識や情報の不足・限界によって生じる幅やばらつきを意味します(Oberkampf & Roy 2025)。土砂移動現象における物理過程は著しい複雑性を有し、その全てが現状解明されているわけではありません。既存の基礎方程式系はいくつかの仮定を含んでおり基礎方程式そのものに様々な不確かさが内在しています。他にも、パラメータ設定や初期条件・境界条件の選定に内在する不確かさ、さらには離散化手法に起因する数値誤差など、さまざまな要因が結果の信頼性に寄与または影響します。これらの不確かさが解析結果にもたらす影響を評価するために、現状の解析では、再現計算や感度分析を通じて、解析結果の妥当性を検証しています。

「不確かさ」を定量評価可能な土砂動態解析システムの開発に向けて

STCでは、土砂動態シミュレーションにおける多種多様な不確かさを適切に分類した上で定量評価するために、最新のVVUQ(Verification, Validation, and Uncertainty Quantification)手法の導入を検討しています。具体的には、解析モデルにおけるパラメータの不確かさ、数値解法に起因する誤差、現場計測データとの乖離を統計的・体系的に評価するために、モデルの検証(Verification)と妥当性確認(Validation)の実施を目指します。これにより、各シミュレーションの結果に対する信頼性を高め、パラメータ感度分析やシナリオ検討を通じたハザード評価の精度向上を図ります。この取り組みは、防災計画や対策施設の効果評価における信頼性・精度の向上に直結するだけでなく、従来の数値シミュレーションが抱える限界を克服するための基盤整備として、今後の研究・開発の重要な柱となることが期待されます。

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